第42回セミナーを2019年11月23・24日に大阪府立大学にて開催いたしました。参加者は33名でした。
セミナー問い合わせ先:
原 圭寛(湘南工科大学)
第42回研究セミナーは,2019年11月23日・24日に大阪府立大学中百舌鳥キャンパスで行われた。19世紀アメリカのカレッジ・カリキュラム史を研究する筆者にとって,シンポジウムの「大学と宗教」,そして自由研究発表の後半のお二方の発表は,特に興味深いものであった。まずは今回ご報告いただいた先生方及び準備をしていただいた事務局の先生方に,この場を借りて御礼申し上げたい。
シンポジウムでは,特に山本氏の報告は,ご専門の宗教史の観点からオックスブリッジの意義を問うものとなっており,大変勉強になった。発表中に「大学史は専門ではない」との発言もあったが,むしろこのような観点からの発表こそ重要であり,またこうした報告がなされることが本研究会の未了でもあると個人的には考えている。また,長谷部会員の報告は,筆者にとっては全くの未知の内容ではあったが,周辺的な説明も含め非常にわかりやすく,また内容的にも興味深いものであった。特に法学部の講義科目や「数学部」の扱いなど,西洋的なカリキュラムの異文化への移入に際する議論は大変興味深いものであった。また江島会員の報告は,日本の大学における宗教学の制度化について論じられており,宗教・宗教教育・宗教学という三者の違いについて考えさせられるような内容となっていた。
このように大変充実した内容のシンポジウムであったが,あえて注文をつけるとすれば,今回挙げられた「オックスブリッジのカレッジ」,「オスマン帝国の官立大学」,「日本の旧制大学」の三者が,各国の学校制度全体を通した課程のレベルや学生の年齢層を見たときに,比較対象としてのレベルが揃っていたかという点である。例えば今回取り上げられた時代のイギリスのカレッジの場合,通っている学生の年齢層は日本の旧制大学より明らかに低く,これと比較のレベルを揃えるためには,イギリスのカレッジ卒業後の教育や,日本の旧制高校についても参照する必要があったかと考えられる。
2日目の自由研究発表についても,日本,アメリカ,ヨーロッパ,オーストラリアと幅広く勉強する機会をいただいた。特に熊澤会員の報告は,欧米の農学及び農工大学の課程の日本への移入について検討されており,また立川会員の報告ではそのルーツの一つとなるアメリカのランドグラント・カレッジにおける農学の盛衰について論じられていて,相互に関連する大変興味深い内容であった。
最後に,今回のセミナーでは本研究会の今後の在り方も議論の対象となったが,筆者個人としては,紀要刊行については新体制を支持するが,毎年のセミナーについては「学会大会」としての制度化を目指すのではなく,試論や構想段階の発表から既発表論文の再検討まで,多様な報告を自由にできる現在の環境が維持されることを望む。加えて,運営にあたる先生方の負担が可能な限り軽減されることに期待したい。
司会:山本尚史(筑紫女学園大学)
司会:長谷部圭彦(東洋大学・客員)