第33回大学史研究セミナー開催報告

  第33回大学史研究セミナーは、2010年11月20・21日の両日、京都駅前にあるキャンパスプラザ京都で開催された。今回のセミナーは、会場の提供と運営について深野政之会員(開催当時、京都FD開発推進センター)にご尽力いただいた。2日間で28名の参加者があった(会員23名、非会員5名)。

   

  初日は、事務局の企画によるシンポジウム「教養教育の比較史的考察」が行われた。現代の高等教育においても重要な課題である教養教育について、国際比較の視点から各国における教養教育の理念的基盤を探ることを目的とした。イギリス:中村勝美(西九州大学)、フランス:上垣豊(龍谷大学)、アメリカ:立川明(国際基督教大学名誉教授)、日本:渡辺かよ子(愛知淑徳大学)の4氏に、各国の教養教育の歴史的展開の特質や理念的論争についてご報告いただき、教養教育を巡る多様な観点について議論が行われた。

 はじめに中村氏は、19世紀のイングランドにおける大学改革や教養教育のあり方を巡る論争を取り上げ、オックスフォード大学やロンドン大学の学士課程教育の内容や方法の特色について論じられた。上垣氏は、教養教育とディシプリンをテーマとし、19世紀のフランスにおける古典人文学を中心とした知的訓練を巡る論争と教育改革について論じられた。立川氏は、20世紀前半のアメリカ合衆国での教養教育を巡る議論を取り上げ、科学による伝統的教養への挑戦が生じる中で、人文学や古典教育の重要性を主張する立場から展開された言説や具体的取組について論じられた。最後に、渡辺氏は、1930年代の日本に着目され、当時の多彩な教養論を紹介しつつ、大正教養主義に対する批判に根差し、戦後の一般教育受容の思想的基盤を準備した思想的状況について、教養「教育」というカリキュラム論に限定されない視点から論じられた。

 報告後の討論では、参加者から、中等教育と高等教育で求められる教養教育の違いと連続性、教養教育の持つ階級性、カリキュラム外での人格形成、コンピテンス論などについて質問が提起され、パネリストとの間で議論が行われた。

 4つの報告はいずれも、教養教育に関する多くの歴史的事実と多様な観点を提供してくれるものであった。限られた時間の中では十分に深められなかった論点も多々残ったものの、教養教育という古くて新しい問題に向き合っていくことの面白さと重要性を改めて認識する機会となったといえる。今回の充実した報告内容を材料に、何らかの形で会として継続的に議論できる機会があればと願っている。

 2日目には自由研究発表が行われた。今回は4件の発表申し込みがあった。大西巧(神戸親和女子大学・非常勤)、井上美香子(九州大学)、林雅代(南山大学)、坂本辰朗(創価大学)の各会員から、いずれも詳細かつ熱のこもった報告が行われた。各発表につき、1時間の発表と議論の時間を取ったが、時間が足りないほどのコメントと質問が挙がり、活発な議論が交わされた。

 セミナーに参加された山崎慎一会員から参加記をお寄せいただいた。本通信に掲載しているのでご覧いただきたい。有意義なご報告を準備いただいた8名の報告者と深野会員に改めて深謝申し上げる次第である。

(事務局セミナー担当: )