第34回大学史研究セミナー報告

  第34 回大学史研究セミナーを、2011 年10 月29 日(土)・30 日(日)の 2 日間にわたり、岩手大学を会場に開催しました。初日のシンポジウムは「カレッジノベル―文学・小説からひも解く大学史―」と題し、大川一毅(岩手大学)、児玉善仁(帝京大学)、吉野剛弘(東京電機大学)、松浦正博(広島女学院大学)の4会員にご発表いただきました。

  「カレッジノベル」は、通常のシンポジウムで取り上げられるようなテーマとは異なり、意外性の高いテーマです。面白くもあり、しかし着眼点が難しくもあり、そうしたことを反映して企画の成立に至るプロセスは決してスムーズなものではありませんでした。しかし、終わってみて思うのは、やはりこれは大学史研究会にしかできないテーマだったということです。大学を対象に研究していて常に感じるのは、大学に関する制度的・一般的なレベルの話と、大学の日常、すなわち教員や学生が体験するキャンパスの実生活との間にある大きな乖離です。外形的な「システム」はある程度時間を掛けて情報収集すればそれなりのものを描くことができますが、それとはまったく違う次元や文脈で現場レベルでの活動が動いていることはしばしばですし、それが各国・各時代の大学の「文化」を形成しています。しかし、大学の現場は個別性が高く、それを研究対象としてどう設定するのかは難しく、大学内部で動いている「文化」を目に見える形にするのはなかなか困難なことです。個人の生々しい体験にどこまで切り込むことができるかという問題もあるでしょう。こうした中、大学に関わる研究は、ともすれば表面的な、目に見えやすい側面に傾きがちです。しかし、「カレッジノベル」は大学構成員の日常的な目線に降りて大学の文化を描く上で、有効な手法となりうる可能性を秘めているのではないか、4 氏の発表を聞きながら、そんな思いを抱かされました。我々はこれまでに描かれてきたノベルを通して、大学文化の歴史を窺い知ることができます。さらには、今の大学の実態を後世に伝える上でも、ノベルの手法には示唆が多いといえるように思います。当日の議論にもあったように、主観性・虚構性と客観性の間の問題など、研究という視点からみた時にノベルをどう位置付けていくのかに関する議論も必要でしょう。いずれにしても、示唆に富む4 氏の発表によって、参加者に新たな視点と発想を喚起していただいたことは間違いありません。以前から研究会の中で議論されていたテーマを、大川会員の企画の元で実現できたこともたいへん嬉しく感じています。大学文化に関する知見に溢れた有意義なご発表をいただいた4 氏に改めて深く感謝申し上げます。

  その後の懇親会では、和やかな雰囲気の中で岩手の郷土の味覚を心ゆくまで堪能させていただきました。2 日目は午前中、山崎慎一(桜美林大学)、井上高聡(北海道大学)、福留の3会員が自由研究発表を行いました。山崎会員「アメリカにおける大学情報収集システムの成立と発展過程」、井上会員「札幌農学校開校(1876 年)の背景」では、若手会員の丹念な研究に基づく有意義な発表を聞くことができました。その後、キャンパス内にある旧盛岡高等農林学校本館をボランティアのガイドの方に案内していただきました。雄大な景色と緑溢れるキャンパスに佇む建物と展示物を見学し、岩手大学の歴史と人の暖かみを感じることができ、これまた本研究会らしい見学会となりました。

  この度のセミナー開催に当たっては、会場をお引き受けいただいた大川会員と岩手大学 の職員の方々に多大なご尽力をいただきました。震災後の大変な状況の中であるにも関わ らず、会場をお引き受けいただき、きめ細やかな心配りをいただきましたことをこの場を お借りして厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。


(前事務局セミナー担当: )