第35回大学史研究セミナー開催報告

 2012 年10 月20 日(土)・21 日(日)、横浜市立大学(金沢八景キャンパス)にて大学史研究会第 35 回セミナーを開催いたしました。今回のセミナーは、会場の提供と設営について、出光直樹会員に全面的にお世話いただきました。
 2 日間で31 名(内、非会員9 名)の参加がありました。

第35回大学史研究セミナー参加記

船勢肇(大阪芸術大学・大阪府立大学・阪南大学)

 第35回セミナーシンポジウムに参加した。シンポジウムは「日本における大学と地域社会の関係」であった。加えて、懇親会でも何人かの参加者・報告者の方々と話したのだが、なにより地域概念の多義性を感じずにはいられなかった。大学と地域の関係について、専門人の育成・地域の人口増などによる経済活性化・産学連携・就労機会の拡大など、多様な視点から分析されていた。これは大学と地域との関わり方が決して一元的ではなく多様な可能性をもつ、という受け取り方が可能なのかもしれない。

 しかし、報告者や参加者の間にかかる多くの相違点がありながらも、おそらく共通した思考も存在していたように思える。それは、大学が拙速な「ニーズ」に左右されるべきではなく全体性への志向を持ち続けるべきであるということと、何らかの形で地域と有機的な関係が結ばれるべき、と考える点であろう。さらに、ここでは次の3点を付言しておきたい。

 第1に、大学が普遍性・全体性への志向を保ち続けることと、地域と関係をもつこととを大学史研究を通じてどのように考えることができるのか、である。  たとえば、筆者が所属した大阪府立大学は「改革」が叫ばれ、ローカルニュースでも取りあげられることがあった。そのとき、大学の価値を――スマートとか派手とかなど――表層的なイメージで評価しようとする報道があった。たとえ地味であったとしても、全体性への志向を持ち続けることで責任を負うのが大学だと考えるが、このような浅薄な「地域のニーズ」に対抗したり修正を迫ったりする契機を大学史研究を通してどのように見出すのか、である。これは大学と地域(あるいは大衆社会)との関係論として考察にふまえるべき点であろう。

 第2に、コミュニケーションの場としての地域である。地縁的結合が薄れ、近年は特に人と人とを結びつけるコミュニケーションの場として地域が重視されることがある。こうした視点からなされる地域史形成と大学史研究を結びつけることはできないだろうか。(もっとも、学内に限ったコミュニケーションすら研究はまだまだ少ないのかもしれない)。

 第3に、2点目とはまるで逆のことに聞こえるかもしれないが、大学と地域とがどうしても相容れない点を追究することである。このようにいえば、「いまさら象牙の塔に閉じこもるのというのか」といわれるかもしれない。しかし、大学(全体性への志向をもちながら専門性を追究しつつ教育する場)と地域(人びとの日常生活の場)とがどうしても相容れない宿命をもつと考えることは、近代以降において好むと好まざるとに関わらず存在してきた社会分業の不可避性から目をそらさないということでもある。「相容れない点とは何なのか」とつきつめて考察することは、地域との有機的な関係を考えるためにも、不可欠な条件のように思える。有機的な関係とは、それぞれの差異を認識すればこそ生じるもののではないだろうか。かつての大学自治論もかかる観点をふまえて生み出されたものであった。

 筆者が以上の課題に対してどれほど考察してきたのかと考えると、恐縮するばかりではあるが、憚りながら愚見を弄した。